コラム
2013年度 「能力開発の再構築」
コラム「能力開発の再構築」は豊橋創造大学大学院の各教授により、
時代の変革をテーマに、中部経済新聞にて連載しています。毎月第2水曜日に掲載!
vol2. 「国際財務報告基準」導入の疑問
従来、日本もアメリカも、自国の会計基準と国際財務報告基準(IFRS)の間にある大きな差異を小さくするアプローチ(コンバージェンス)に力を注いできた。しかし、最近一気にコンバージェンスから「アドプッション」(自国の会計基準を捨てて、国際会計基準に完全に移行するアプローチ)に踏み出そうとの声が強くなってきた。国際会計の基準は、最近グループ企業の連結財務諸表、減損会計、退職給付引当金会計、時価会計、など幾つかの新しい基準を公表してきた。
日本もアメリカも細かいルールを決めて決算を行う細則主義を採っているが、国際会計基準は原則主義(会計処理を厳密なルールで縛るのではなく、その判断や会計慣行に幅を持たせたほうが、経営実態をより良く示すことができるという考え方)しかない。細則主義だと必ず各国や各企業の利害がぶつかって、我が国では使えない、我が社では無理だということになり国際会計基準は使えないところが出てくる。したがって、国際的な基準を作るには原則主義を採るしかない。IFRSは、原則主義でEU、BRICsをはじめ世界百数十カ国で導入が進んでいる。原則主義で果たして会計ができるのか、幾つかの疑義が浮かんでくる。
ところで、IFRSは、連結財務諸表に適用するために開発された基準である。個別財務諸表に適用することは想定されていない。EUをはじめIFRSを導入している国では、個別財務諸表への適用はごく少数で、適用も任意である。にもかかわらず、あえて日本だけが連結・個別財務諸表への強制適用を進める必要性があるだろうか。むしろ、各企業が経営上必要と認める場合のみIFRS導入をすれば良いのではと思われる。IFRS適用によるメリットを享受する機会が少ない企業にとってはそれこそ命取りになりかねない。
また、国際会計基準審議会(IASB)が導入を進めているIFRSの真の狙いは何か。IFRSの提唱する「包括利益」とは、本業で稼いだ当期純利益に金融商品などの評価差益を加えたものである。利益計算に公正価値(時価)の考え方を入れている。その背景には英米において金融工学が発達し産業の中心を占めた結果、日本をはじめ「ものづくり」を中心とする諸国に対して、従来の会計基準では利益を上げることが困難になってきた点である。日本は、こうしたIFRSの会計観にはなじまず、これまで多くの国々で重視されて来た当期純利益概念を今後も重視していく姿勢が必要である。
教授 中野 一豊