研究要旨

蒔田寛子 教授

E-mail : h-makita@sozo.ac.jp

在宅看護の看護過程に関する研究
救急急車利用を利用する高齢者へのリスクマネジメントに関する研究

主な研究と特徴

《独居高齢者の在宅療養支援に関する研究》
ADL低下高齢者の独居療養生活を継続するための支援について、支援機能の視点から構造化し、機能充足型の支援システムを明らかにし、独居療養者のQOL向上に寄与することを研究目的とした。独居療養生活継続のための要素の分析により17のカテゴリが、独居療養生活支援に関する機能の分析により14のカテゴリが抽出された。17の生活継続の要素と、14の支援機能を統合し、独居療養生活を構造化できると考えた。独居療養生活継続のための17の要素は更に、生命の維持、生活の維持、生活のゆとりの3つの内容に整理できた。そして、これらは、セルフケアの内容と、潜在的なニーズへの援助を受けている内容があった。セルフケアの内容については、顕在的ニーズへの支援の依頼と、自らニーズを満たす行動であった。独居療養生活支援機能は、「理解」「援助」「援助の調整」という3つの側面と、支援方法の5つの特徴の側面があった。独居療養者のニーズをふまえ、立場や職業的に特徴のある支援方法で支援していた。
少ない人数で必要な支援機能全てを担っていく場合、療養支援の専門職のみで担うという考え方ではなく、地域住民の支えあいを積極的に活用していくという考え方への転換が必要である。その際、独居療養者自身も必要な支援を依頼するという機能を果たすことが必要と考える。本研究結果を普遍化し、今後の独居療養生活支援システムを論じるには研究対象者の偏りと、療養生活支援システムに非専門職を含めることにさらなる検討が必要であり、これらに限界がある。

《終末期患者の在宅療養支援に関する研究》
女性配偶者が、がんターミナル期の夫を在宅で介護し看取る体験について明らかにすることを研究目的とした。研究対象者は、医師と訪問看護師の支援を受けながらターミナル期を在宅で過ごした夫を介護し看取った女性配偶者とし、看取り後6ヶ月前後経過している者とした。半構成的な質問項目を用いて面接を行いデータ収集し、修正版グラウンデットセオリーアプローチを用いて分析した。その結果、11の概念を生成し、その概念の関係の検討から、〈穏やかな時間の共有〉〈持続する緊張と閉塞感〉という2のカテゴリを生成し、【期限付非日常生活】をコアカテゴリーとして生成した。介護には持続する緊張と閉塞感があったという面と、穏やかな時間の共有ができたという肯定的な面があり、これらは流動的に動いていた。夫の死は看取りの緊張からの解放であり、夫にとっては、疼痛などの苦しみからの解放であった。そして、自宅での看取り体験を期限付き非日常生活と捉えていた。

《在宅療養支援における多職種連携に関する研究》
在宅ケアにおける職種の専門性による観察の視点と、さらに職種をこえて共通する観察の視点を明らかにすることを研究目的とした。病気とその症状、障害を前提に観察しているが、訪問看護師は全身状態に、訪問リハビリ職は身体機能と生活に、訪問栄養士は栄養状態に着目していた。またどの職種も日常生活の観察が抽出されたが、それぞれに特徴があった。在宅ケアでの多様で複雑な経験を元に、「いつもと違う感じ」に注目し観察しており、このような直感的判断が共通する観察の視点と考えた。

《住民互助の地域づくりに向けた支援者教育プログラムモデルに関する研究》
住民ボランティアの高齢者支援における課題を明らかにすることを目的とした。それにより、ボランティアに必要な教育内容を抽出することができる。高齢者支援のボランティアをしている地域住民を対象にフォーカスグループインタビューによる面接を行い、高齢者支援で困っていること、および具体策等について質問し、自由に討論してもらった。「住民ボランティアが抱える高齢者支援の課題」については、 7のカテゴリを、「住民ボランティアが実施している対策と今後への提案」については、6のカテゴリを生成した。高齢者支援における課題の主な内容として、認知症高齢者への対応困難、独居高齢者を地域で支えることの困難、高齢者支援を継続することの困難があげられた。後継者の確保は逼迫した課題であり、支援の有料化等も含めた根本的な考え方の変更が必要と考えられた。

今後の展望

在宅看護学、家族看護学に関する研究を主に行っており、現在「住民互助の地域づくりに向けた支援者教育プログラムモデルの開発」にアクションリサーチの手法を用いて、取り組んでいる。地域包括ケアシステム構築が推進されている中、社会関係資本は大変重要である。高齢者支援においても地域住民ボランティアが活躍しているが、この支援はボランティアの好意に依存した支援であり、ボランティアはケアの専門職ではない場合が多いため、継続支援には専門職による継続的な支援が必要と考える。住民ボランティアが抱える課題を明らかにし、課題解決に向けた支援者教育プログラムモデルを開発する予定である。
「救急急車利用を利用する高齢者へのリスクマネジメントに関する研究」に取り組み始めた。超高齢社会を背景に、多職種連携による支援システムが構築されつつあるが、在宅高齢者の救急搬送は増加傾向にあり、緊急度が低いものを含むことから、救急車の適正利用の点で深刻な問題である。しかし、有効な解決策はなく、救急搬送患者への支援システムの構築は進んでいない。そのため、救急車の非適正利用をリスクと考え、解決策として「救急車を利用する在宅高齢者へのリスクマネジメントモデル」の開発に取り組んでいる。具体的には、1)救急車を利用する高齢者のニーズと多職種の支援内容、2)高齢者のニーズをふまえたリスク軽減のための支援(影響因子)を抽出し、3)救急車を利用する在宅高齢者へのリスクマネジメントモデルを開発する予定である。本研究の成果は、救急搬送患者増加の解決と在宅高齢者の生活の安定、および社会保障費削減であると考える。
また、在宅看護学の研究者とともに、在宅看護(主には訪問看護)の看護過程について整理している。訪問看護師は、豊かな経験知をもとに素晴らしい看護を提供している。しかし対象の多様性、環境の多様性などから、一言で看護を表すことが難しい領域でもあり、在宅看護の特徴をふまえた看護過程がいまだ明らかに示されていない。在宅看護の対象者の特徴、在宅看護の専門性を明らかに示し、在宅看護の看護過程を整理することは、在宅看護の体系化につながると考える。

経歴

千葉大学看護学部卒業(学士 看護学)
聖隷クリストファー大学大学院看護学研究科地域看護学専攻長期在学コース修了(修士 看護学)
聖隷クリストファー大学保健科学研究科博士後期課程修了(看護学 博士)

所属学会

日本家族看護学会  日本看護科学学会  せいれい看護学会 日本公衆衛生看護学会  日本在宅看護学会  日本在宅ケア学会 日本看護学教育学会 日本看護研究学会

主要論文・著書

主要論文

  1. 住民互助の地域づくりに向けた支援者教育プログラムモデルの開発 住民ボランティアの高齢者支援に関する課題:蒔田寛子,大野裕美,豊橋創造大学紀要,24,51-64,2020.
  2. 妥当性のある看護学実習評価のあり方 ルーブリック評価導入に向けた取り組みからの考察:蒔田寛子,大島弓子,他6名,豊橋創造大学紀要,23,75-85,2019.
  3. 症例報告からみる野宿生活者が罹患しやすい疾患の特徴と受診に至る経緯についての文献検討:白井裕子,蒔田寛子,佐々木裕子,豊橋創造大学紀要,23,31-44,2019.
  4. 保健医療学部大学生の身体活動状況と生活習慣:辻村尚子,蒔田寛子,豊橋創造大学紀要,23,21-30,2019.
  5. 慢性疾患をもつ在宅高齢者の災害時の治療継続に関する備えの実態と課題 地域包括支援センターを利用している在宅高齢者を対象にした調査から:笹木りゆこ,蒔田寛子,山根友絵,日本在宅看護学会誌,7(2),36-43,2019.
  6. 看護学研究の実践への還元 日本在宅看護学会のこれまでとこれから:川村佐和子,蒔田寛子,日本在宅看護学会誌,7(2),9-14,2019.
  7. 家族が意識障害となった患者を家族として受け入れていく支援の検討:田中多久美,蒔田寛子,他5名,日本看護学会論文集: 慢性期看護,49,155-158,2019.
  8. 看護学教育におけるアセスメント・ポリシー策定の現状 看護系大学と他大学との比較から:山根友絵,大島弓子,蒔田寛子,他10名,豊橋創造大学紀要,22,79-88,2018.
  9. 看護系大学における「基礎ゼミナールI」のルーブリック評価の作成過程と課題:山口直己,大島弓子,蒔田寛子,他10名,豊橋創造大学紀要,22,69-77,2018.
  10. 地域包括ケア推進に関する研究 多職種連携と市民参加のまちづくり:蒔田寛子,大野裕美,豊橋創造大学紀要,22,59-68,2018.
  11. アセスメント・ポリシー策定にむけた看護学科の取り組み 看護学教育の包括的評価として:蒔田寛子,大島弓子,他11名,豊橋創造大学紀要,22,45-57,2018.
  12. 在宅ケアにおける専門職の観察の視点 訪問看護師、訪問リハビリ職、訪問介護職、訪問栄養士の職種の違いから:蒔田寛子,楠本泰士,永井邦芳,山根友絵,豊橋創造大学紀要,22,19-34,2018.
  13. 2015年度ディプロマ・ポリシー到達度評価 看護学生による自己評価アンケート結果の分析から:松本尚子,大島弓子,蒔田寛子,他12名,豊橋創造大学紀要,21,153-163,2017.
  14. 2015年度カリキュラム評価の現状と課題 学生・教員からの評価に焦点をあてて:蒔田寛子,他14名,豊橋創造大学紀要,21,119-141,2017.
  15. 2015年度卒業生によるカリキュラム評価 看護系大学生の卒業時の不安に焦点をあてて:五十嵐慎治,大島弓子,蒔田寛子,他12名,豊橋創造大学紀要,(21),91-99,2017.
  16. 一人暮らし要介護高齢者を別居で介護する家族介護者の介護生活継続の様相:山根 友絵, 蒔田 寛子, 山本 三樹雄,日本在宅看護学会誌,5(2),36-43,2017.
  17. 整形外科手術を行った脳性麻痺患者の初回手術時期の適否を判断した要因:楠本泰士,蒔田寛子,古川順光,松田雅弘,新田收,日本保健科学学会誌,18(4),179-186,2016.
  18. リハビリテーション専門職と管理栄養士との連携強化にむけた管理栄養士による訪問栄養指導の視点の分析:日下さと美,佐藤悦子,高橋哲也,蒔田寛子,蓮村幸兌,暮らしとリハビリテーション,3巻,52-59,2015.
  19. カリキュラム改正の検討過程とその成果:大島弓子,蒔田寛子,他8名,豊橋創造大学紀要,20,47-65,2016.
  20. 在宅療養支援に必要な専門職の観察の視点と連携の課題:蒔田寛子,牧田光代,保健医療福祉連携,8(2),155-163,2015.
  21. 地域住民の終末期の過ごし方に関するニーズの検討 「地域での看取り勉強会」を実施して:鈴木ひろ子,蒔田寛子,渡邉美樹,小林敦子,豊橋創造大学紀要,18,55-60,2014.
  22. 病棟看護師と訪問看護師の連携促進強化の試み 入退院連携シート(退院時共同指導説明書)の作成と活用:蒔田寛子,他8名,豊橋創造大学紀要,18,2014.
  23. 終末期在宅がん療養者を看取る決心をした家族への訪問看護師による家族看護実践:山村江美子,長澤久美子,蒔田寛子,冨安眞理,せいれい看護学会誌,4(1),1-5,2013.
  24. 【慢性疾患を悪化させない訪問看護】高齢独居療養者の生活継続に必要な機能を考える:蒔田寛子,コミュニティケア,15(11),14-19,2013.
  25. 独居高齢者の療養生活継続支援における支援者連携 訪問看護師の役割に焦点をあてて:蒔田寛子,豊橋創造大学紀要,17, Page9-22,2013.
  26. 新任期保健師の個別支援能力向上を目的とした研修の評価 家族看護に焦点をあてて:蒔田寛子,他5名,豊橋創造大学紀要16,93-103,2012.
  27. 保健医療福祉領域における高齢者に関する独居療養生活継続のニーズの検討:蒔田寛子,川村佐和子,せいれい看護学会誌,3(1),1-10,2012.
  28. 新任期保健師の個人・家族支援能力向上のための研修の評価:鈴木知代,蒔田寛子,他4名,聖隷クリストファー大学看護学部紀要,20,11-20,2012.
  29. 訪問看護を利用している高齢独居療養者の生活継続に必要な機能の分析:蒔田寛子,川村佐和子,バイオフィリアリハビリテーション研究,7(1),7-17,2012.
  30. 通所リハビリテーション施設における多職種連携の実際と課題 ADL向上への利用者の希望と支援の実際から多職種連携を検討する:蒔田寛子,牧田光代,矢田眞美子,鈴木達也,豊橋創造大学紀要,15,167-176,2011.
  31. 「在宅療養している終末期患者のQOL」の概念分析 Rodgersの概念分析を使って:蒔田寛子,日本看護医療学会雑誌,12(1),39-47,2010.
  32. がんターミナル期の夫を在宅で介護し看取った女性配偶者の看取り体験の分析 医師と訪問看護師による継続的な支援を受けての看取り体験:蒔田寛子,大石和子,山村江美子,中野照代,家族看護学研究,15(1),51-57,2009.
  33. 要介護高齢者の介護者であった配偶者の看取り後の生活状況:蒔田寛子,飯田澄美子,家族看護学研究,14(1),41-47,2008.
  34. 在宅看護論における家族支援に関する学習効果の検討(2) 学生の介護者の自己実現に対する認識に焦点をあてて:藤生君江,蒔田寛子,他4名,岐阜医療科学大学紀要,2号,15-20,2008.
  35. 看護教育実践レポート 看護技術習得のための効果的な教育の検討 看護基礎教育に取り入れた「領域実習前演習」の効果:蒔田寛子,大石和子,看護展望,32(12),1226-1231,2007.
  36. 在宅看護論における家族支援に関する学習効果の検討 学生の家族支援の認識に焦点をあてて:冨安眞理,蒔田寛子,他3名,聖隷クリストファー大学看護学部紀要,15号,35-43,2007.
  37. 看護師が体験したセクシャルハラスメントの実態 女性看護師が病院で体験したセクシャルハラスメントの実態とその後の看護への影響について:大石和子,蒔田寛子,日本看護学会論文集: 看護管理,36号,89-91,2006.
  38. 高齢者のプラスイメージを形成する老年看護学実習の検討:大石和子,蒔田寛子,日本看護学会論文集: 看護教育,35号,94-96,2005.
  39. 在宅看護論実習における学びの分析から実習方法を検討する:蒔田寛子,大石和子,日本看護学会論文集: 看護教育,35号,77-79,2005.
  40. 看護サマリー用紙の改善の検討:丸山 幸子, 大石 和子, 蒔田 寛子,日本看護学会論文集: 老年看護,35号,85-87,2005.

著書

  1. 保健師業務要覧第4版,第3章活動の場ごとの保健師活動とその特性,4福祉機関,日本看護協会出版,2020.

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